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「四季」をめぐって(1) [劇台本「四季」]

台本ができた時の「記録」にこうあった。
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1968.9/19 4:45pm
夕べから今までで劇を書きあげた。まだちょっと自分の実感として出てこない。こんなもの書くことができるとはきのう、そして今まで全然思っていなかったんだから。おもしろいほどペンがすすむのだ。まだ森本の評価しかうけていないけど。ちょっと自分乍らまだ信じれん。
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と、興奮した字で書いている。それから間があって、
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10/24 1:35am
劇、おれの一番元の脚本でやることになって、果してやれるかという不安。
今、ガリ切り。ロウを焼いて、ガリ板を冷やしているところ。なかなか冷えない。
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10/26 1:35am
 文化祭まであと一週間。劇の練習、毎日やってるのだが、なんかしまらん。自分で書いた脚本でやるということのてれくささ、というかどういうか。
おれ自身、はっきりした意図もなく、ペンの進むままに書きあげたものだけに、その内容について追求されてくるのが辛い。おれ自身の急所もついてくる。それを言えないことはない筈なのに、何故辛いのか。おれ自身何故人の前に曝すことができないのか。おれ自身の世界としてとっておきたいのか。おれの逃げ場所として。
理解してもらおうとする時、云えばいいのだ。 ああいう劇を書いたことへの後悔。何故書いたんだろう。でも今更いってもはじまらん。
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脚本が落ち着くまでにはいろんな議論があったのだった。その時のメモがあれこれ残っていた。
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3年の諸君へ
文化祭3年劇実行委員会
文化祭もあと2週間に迫った。われわれ3年劇実行委は既に脚本を完成し、17日より以下の日程で練習に入ることになった。
云うまでもなく、3年の劇は3年みんなでやる劇である。われわれ3年生は、われわれの全叡智と全精力をこの劇制作のために傾注し、岡山大学学生寮における文化発展の巨大な一翼を担おうではないか。3年生諸君全員の積極的参加を期待する。
さて、われわれは、われわれの日常的にかかえている問題を演劇として表現するために、すべてわれわれに手になる創作劇に取り組もうとしている。脚本は出来ているものの、決して完成されたものではない。われわれはこれからの2週間の練習期間の間に、この脚本に更に検討を加え、ほんとうのみんなでの創作劇にしたいと思う。そのために練習後の30分間(11:30〜12:00)をこの劇完成ための討論にあてることを計画している。
できるだけ多くの諸君がこの討論に参加し、できるだけ多くの人によるわれわれの劇にしようではないか。
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”おれたちは何のためにこの様な劇をやらねばならないのか”とある人はいう。
たしかに、この劇を観おわっても何の力も希望も湧いてはこないだろう。でも、この劇がわれわれの寮生活の中から生まれてきたということは、動かしがたい事実なのだ。
われわれの時代は混沌としている。こうした中でわれわれは、いやなものはいやなものとして、汚らしいものは汚らしいものとして、はっきり認識することでより強くなる。
それらは、われわれの外にあるだけではない。われわれが外にそれらを見るならば、内にもそれらはあるはずだ。われわれはそれらをそれらとしてはっきり認識することで、この混沌とした時代を力強く生きぬいてゆかねばならないのだ。
われわれがこれからやろうとしている劇は、これから君の内部で展開されようとしているドラマのプロローグにすぎない。
君がこの劇を観て何かを感じ、それについて考えはじめることによって、ほんとうのドラマははじまるのだ。
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孤独な、われわれにとって本来の地点から、自分の世界を築きあげる。そしてそこから、何らかの社会の幸福への道も見出すことができるかもしれない。
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最後の一文から、当時の雰囲気の中でのこの劇の位置付けがわかる。まだ「社会の幸福」が第一義の時代だった。それはまずおいといてまずは「本来の地点」に立ち帰ってみよう、という問題提起がこの劇だったともいえる。思えば、この時点ではまだ遠慮がちだが、その後の大学紛争の基層にあった感覚だ。トランプさんの「アメリカファースト」にも通ずるか。(トランプさんは私の一級上、1946生) いずれ、吉本のいう「自立」への志向。私には、小林一喜著『吉本隆明論』(1968)が導きとなった。そこに描かれた吉本感覚がまさにそれだった。しかしこの頃、「ひらきなおる」までにはまだ間がある。「大学紛争」をくぐらねばならない。

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